紅もみ(あかもみ)の魅力
新成人が選ぶ振袖の色は、特に赤の色の振袖が好まれているようです。赤い振袖と言う場合、外側から見える側、つまり振袖の表面(おもてめん)が赤い色の振袖を思い浮かべる方が多いかと思います。が、大正時代までの振袖は外側だけのお洒落に気を配っていただけでなく、内側のお洒落にも気を配っていました。それがどこで見えるかですが、内側はすべて赤い裏地をつけていました。ここでは赤の裏地について見てみたいと思います。因みに、赤の裏地は赤もみ(あかもみ)と呼ばれていて、現在は製造されていませんので、赤もみの裏地はアンティーク振袖の証であると言うことができます。写真は、大正時代のアンティーク振袖の裏地(紅もみ)で、何とも鮮やかで愛らしい赤です。
赤い裏地をどうして”紅もみ”と呼ぶかですが、かつて和服の赤い色は紅花(べにばな)から採っていました。紅花は、キク科の一年草で、江戸時代から現在でもそうですが、山形県が生産地として有名で、山形県の県花にもなっています。紅花の花から赤い色素を取り出すのですが、花はアザミにそっくりで、棘があるので摘み取りは簡単な作業ではなく重労働です。そんな貴重な紅花を何度も揉みこんで赤の色を出すことから、紅を揉みだす⇒”紅もみ”と呼ばれるようになりました。紅花から取り出した赤い色は、気持ち黄金色に輝くような赤の色を発していて何とも鮮やかですが、科学的にも防虫防腐効果もありますので、赤という色が単に迷信的なおまじない程度のものではなく、実質的な効能があった訳です。
紅花は大変に貴重な植物で、紅花の重さと同じ重さの金と交換されていたほどです。大正時代からおよそ100年が経過していますが、植物から染めた生地は令和の時代の今でも仕立てられた当時の色を保っています。また、裏側で外から見えないと言いましたが、振袖の袖は縫い込んでいないため、娘さんの動きによっては裏地がチラッと見えることがあります。そのような時に裏地がナイロンの無地ですと特別な感情も起こりませんが、紅もみの紅色が見えたりすると、何とも言えない色気を感じさせるものです。表面の赤も去ることながら、大正時代から続く裏地に紅もみを使っているアンティークの振袖はそれだけでも貴重な美術品と言うことができます。